約束を違えた。
女の痛みを。
女の想いを。
踏み付けた。
あの凛とした眼差しを。

肉の塊にされた後すら。
痛み一つ歌わなかった。


あの、よい雌を。
裏切った。


「故に、我は女は食えぬ。
 二度と、女は食えぬのよ」

約束を違えたそれが罰だと。
そう、男はゆるりと笑った。
肩を強く抱かれる。
ぼぅと見上げると、男と目が合った。
狐面の向こうの目。
獣の吐息。
こちらを覗く目が。
何故か、よく見えない。

「のぅ、娘」

変わらぬ声が言う。
遠い何かを覗き込むように。
憑かれたような音。
それに答えず。
ただ首を傾げる。
男は言う。
ぐらりと、何かが傾くように。
そんな声で。
そんな様子で。

「お前は―――あの女に似ている」

男は僅か身を屈めた。
伸びる舌が鼻へと触れる。
その瞬間。
肋骨が鳴った。
ぎちりと、肺の内側で。
何かが動く。
蠢く、音。
仕掛けられたカラクリが――啼くような。

『これだから―――男は愚かよ』

誰かの艶めく声が聞こえた。
その刹那。


男の体を、蟷螂の鎌が切り裂いた。